コラム」カテゴリーアーカイブ

知 VS 情・意のレジスタンス

写真 (18)

時々、措置入院の鑑定診察を担当することがある。措置入院は、「精神障害があり、それによる自傷他害のおそれがあると精神保健指定医2名の判断が一致した場合、都道府県知事または政令指定都市の市長からの命令により行われる入院治療」を指す。精神科に通っている人たちが家で暴れてしまったり外で危険な行為をしたりした場合に、警察が間に入ることがある。その際に「精神疾患による症状なのではないか」と判断されると、自治体の保健担当職員を介して精神保健指定医に措置入院の鑑定診察依頼がくる。
夜や深夜に多いのは、境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder; BPD)の人たちの情動の爆発である。女性が多い。家族や友人と口論になり、自分や相手を傷つけようとするそぶりを見せて、相手が警察を呼び、保護される・・・という経緯が多い。
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ロックで読み解く貧困 (2) 子どもの貧困- Suzanne Vega “Luka”

前回は経済的貧困だったけれども、今回は子どもの貧困について書く。支援の貧困と言いかえてもいいかもしれない。

1987年の、スザンヌ・ヴェガの「ルカ」。初めて聴いたときは少し衝撃を受けた。この曲は結構ヒットしたけれども、いわゆる児童虐待がテーマで、当時話題を呼んだ。

僕の名前はルカ
2階に住んでる
あなたの上の階です
前に会ったことあるよ

もし…夜中に何か、ケンカみたいな、もめごとみたいな音が聞こえても
「何があったの?」と聞かないでくださいね
「どうしたの?」と聞かないで
どうか、聞かないで
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ロックで読み解く貧困 (1) – Tracy Chapman “Fast Car”

先日、トレイシー・チャップマンの「ファースト・カー」がラジオから流れてきた。
この曲でうたわれるテーマは、絵に描いたような貧困だ。この曲は若い女性のストーリーである。彼女の交際相手は、スピードの出る車を買った。父はアルコール依存で、飲んだくれてばかりで働かない。母は別の人生を求めてそんな夫と娘を棄てた。彼女は学校を辞めてコンビニで働き、父の世話をしている。彼女はこの町を出さえすれば、新しい人生が開けるのではないかと思い、彼のクルマで町を出ようとを提案する。

彼女は新しい人生への一縷の望みを賭けて、彼にこう迫る。
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拡散するBPD、収縮する摂食障害

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 5年ほど前に、神奈川の作業所から、境界性人格障害(Borderline Personality Disorder ; BPD)の人たち向けの講義をしてくださいと頼まれたことがある。普段はその作業所は摂食障害の人たちが通っているが、BPDと摂食障害の人たち、その家族が主な聴衆で、その中でもBPDの人に向けた講義をお願いします、という依頼だった。
 その時に私が選んだ講義のテーマはなぜか「自分を愛そう!BPD」というタイトルだった。BPDの「わがまま」にも見える行動は自己愛が強いせいと思われることが多いが、私は自己愛が極端に低いせいだと思っている。健全な自己愛を持っていれば、人の関心を惹き続けたり、「私を愛して!」とケアを求め続けたり、見捨てられたと感じて自傷する必要もない。他人の反応は淡々と受け流して、黙々と自分のしたいことをしていればいいし、それができるはずだ。

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私の3.11

1年前の2011年3月11日の午後2時46分。
私は中央区の高層階にある診療所で診療していた。受診した人と話していたときに、大きな揺れが来た。初めはすぐおさまると思い、面接を続けていたが、そのうちに大きなキャビネットが大きく揺らぎだした。揺れはとても長くて、これはだいぶ大きい、と思った。その日、たまたまその人の母親が来ており、廊下で待っていた。その人は「母の様子を見てきます」と部屋を飛び出した。
私は小学校で教わった通り、机の下に入った。3つ並んだ背の高いキャビネットは倒れそうなくらい揺れた。こういうとき、幼い頃に教えられたことは案外習性に刻まれているものだなと思った。机の下にいればなんとなく安心な気がした。

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