「人はなぜ依存症になるのかー自己治療としてのアディクション」(星和書店)を読んだ。アメリカの薬物依存症治療のエキスパートであるカンツィアンらの原著を、日本における第一人者である松本俊彦先生が翻訳したものである。
この本では、「薬物依存症は感情的苦痛を和らげるための自己治療の試みである」という「自己治療仮説」について述べられている。
私が興味をもって読んだのは、彼らは快楽追求のためというよりはむしろ、感情的苦痛を和らげるために、薬物を「選択」して使用している、ということであった。たとえば攻撃性と怒りの感情が激しい人はヘロインなどのオピエートを好んで使用する。ひりひりするような怒りを何とかコントロールして、人間関係を丸く収めようとする。アルコールを好む人は、不安が強く、対人緊張を和らげ快活な自分を演出するために飲酒する。もともとうつ病や不安障害、ADHDなどの精神障害が併存している人も、一定の割合で存在する。ここには、「精神的問題への対処としての、死にものぐるいの自助努力」としての薬物依存症の像がみえてくる。