がんばる民、けちる国、の系譜

夕張にいらした森田先生の記事、俯瞰した視点は今持ってみてもなんかつらいってところもあるのですが、大事な視点で落ち着いたら忘れてしまうと思うのであえて置いておきます。


以下引用。
「日本ではあまり知られていないが、ドイツはもちろんヨーロッパの国々では医療といえば、警察や消防と同じ様な「公的」な存在なのが一般的である。ドイツの病院は公立・公的病院が8割で民間病院はわずか2割である。

簡単に言えば、医療の多くの部分を民間に移譲していないのである。これは同時に、国や公的機関が医療機関に対する指揮命令系統を保持しているということでもある。

一方、日本の医療機関は約8割が民営である。もちろん、コスト意識やマネジメント力の高い民間が医療機関を経営することのメリットは多大にある。しかしその一方で、医療という国家の安全保障の指揮命令権を民間に分割・移譲してしまうことのデメリットは計り知れない。民間に開放するということは、国からの指揮命令系統がうしなわれるということなのだから。 」
引用終わり。

記事中ではドイツの例が引き合いに出されていますが、
今回のCOVID-19のパンデミックで日本の病床がなかなか増えなかったり対応が遅いのは日本の病院の8割が民間病院で、ヨーロッパみたいにおいそれと病床や医療従事者の転用ができないから。
でも診療報酬は法定価格なので、実質半官半民といってもいいのでしょうが、これまでも採算は自分でとってね、だったし、コロナ診てください、でもそのリスクは自己責任でお願いします(しかも防護具が不足という未曾有)、のようになっているし、なんだか自粛要請と似ている。自粛の逆だけど。
指定病院じゃない診療所で感染リスクを侵して検体とってもそれに報酬がつくわけでもなく、受診患者数は減っていて、その分の減収も起こっている中で、ただ医療者のいつもの「献身」が支えている。パンデミック後の社会では美味しい個人店だけでなく良心的なクリニックもなくなっているかもしれない、と思ってしまいます。



なんでこんなに日本は民間病院が多いのかとずっと思っていたけれどちゃんと調べたことがなくて、日本は明治維新の前には漢方医が多かったけど戊辰戦争で漢方より蘭方のほうが(戦時に)役に立つというので、蘭方を国の医師免許にしたけど漢方医のほうが4倍くらいいたのでその人たちの開業を認めたから、という説を信じていました。ですが今回調べてみたら、このときの漢方医は一代限りの医業開業免許だったので、結局その後は蘭方の医学専門学校に行った人でないと医師免許はもらえなかったのですね。
実のところは、明治維新後、蘭方を国の医学として国公立の病院や医学専門学校を色々建てたものの、明治10年に起きた西南の役の戦費で明治政府が疲弊してインフレとなり、伝染病と軍の病院以外の公立病院と医専を閉めかなり民間に払い下げてしまったという経緯があったらしい。順天堂や御茶ノ水の井上眼科とかはその頃からあった(お金持ち向け)私立病院だったようです。その頃から伝染病と軍事のための医療は国が主導で、それ以外の一般医療は民間でという流れができたとのこと。

結局、お金渋ったせいだった。今と同じだ、というのが率直な感想。

まあヨーロッパでもドイツとその他ではだいぶ制度上も起きていることも異なるので、一概に何が理想的とも言えないとは思います。今の日本で中央集権にしても独裁とか腐敗とか愚策になるだけとも思うし、信頼度と実行力に疑いがあるので、結局やっぱり民間と民の個々の献身と工夫と協働頼み、は不変なのでしょう。でもそれが少しずつ、行政を動かしている気もする(遅いけど今までと比べたらありえなかった速さとも感じる)。民間がなんとかしてしまうから政府の制度設計力が育たないのか、逆なのかわからんけど。オーバーフローしつつあるICUのこと考えると怖いけど、でも梨田も一般病棟に移ったよ!

前線の医療者のみなさまにはほんとうにご無事を祈るしかない状況ですが、とりあえず行政におかれましてはマスクとガウンとフェイスシールドとアルコールをなんとか病院へ送ってください。