短歌」カテゴリーアーカイブ

短歌 夜のお菓子

分けがたし皮膚に残りし温もりは もと君のものいま吾(われ)のもの

みづからを深く沈めて吾(あ)の中に 君は何かを捜してをりぬ

抱きあひて在るひとときに巡りしは 君といふ昼吾(われ)といふ夜

短歌 みもだえ

平らかにありたしかくも身もだえす身の上なるかうつむきて寝る

うねくねりあげく途切れぬ鉢植えの万年竹はわれの煩悶

咲かぬまま花瓶の中で朽ち果てつ蕾(つぼみ)いかにか口惜しからむ

短歌 坐禅の分子生物学

坐りをる吾(あ)の丹田に満ちくらむ 分子レベルの闇しづかなる

核内のmRNA起動せよ 吾の不甲斐無さ喝破するため

短歌 はつぐるい

官能をうたう映画の初回朝 初老男女の独りが集う

君に告ぐ物狂おしさ腹ばいのまま訝(いぶか)りし君恨めしき

むかひあひ美しくなれりと君のいふ その日に紅(あか)きつぼみひらきぬ

蒸す朝に蕾ひらかず腐りおち ただじりじりと身悶えている

短歌 春に狂ふ

くるおしくいまひらく花白のなか 紅が混じって春に病んでる

一匹の飼い馴らせない雌の棲む 我が身のうちに爪立てるなり

子らよ見よ庭の片隅身のうちの 歓び恥じず咲かすなり合歓(ねむ)

吾(あ)もかつて獣なりにし如何やふな 夕暮れ見しか遺伝子にきく

どうみてもありえないのに道端で つまづくように愛してしまった