音楽」カテゴリーアーカイブ

ロックで読み解く貧困 (4) 労働の貧困 -XTC “Making Plans for Nigel”

ロックで読み解く貧困シリーズ、最終回です。実はこの最終回が書きたくて始めたのだった。最終回は、労働にまつわる貧困です。そして大好きなXTCの曲です。

細々と、一番長く続けている仕事がある。飽きっぽく腰の据わらない自分が、10年ほど続けている。とある自治体の知的障害者作業所の精神科相談である。
この仕事は、ほんとに若くて未熟なときに始めた。利用者の人たちは、そもそも口数が少ない人が多い上、多くない語彙の中からわずか数語に、言葉にならない思いを乗せてコミュニケーションをする。初めて会う人には緊張して、ますます言葉が減る。なので、どういう言葉を使うかとか、何をどういう風に尋ねるか、とか試行錯誤の上、内面よりも生活のことに絞ったほうが話しやすいという知見を得た。気分はどうかよりも、ご飯を何時に食べたかのほうが答えやすいし、生活と行動を丹念に聞き取ればそこに何らかの思いや意図が見えてくる。
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ロックで読み解く貧困 (3) 尊厳の貧困 – Aerosmith “Janie’s got a gun”

感情的に不安定で、自分というものの感覚を持てない。いつも自信がなく、他者もしくは場の空気を読み、自分を抑圧しながら、時にその怒りや苦しさを反動で噴出させる。怒りや苦しさを自覚できればいいけれど、それを感じてはいけない、と思うと、その場から「いなくなる」。肉体はそこにいながら、意識はそこにいることをやめて、「抜けてしまう」こと。その時空間に存在することをやめてしまう、それが解離という現象である。
自分自身を振り返ると、幼少期は土も緑もない東京の下町で、閉塞的な空間と人間関係と価値観の中で、喘息発作でいつも疲れており、そこから抜けたくて進学校に進んで医者になったものの、常に自分自身の価値観や欲求とは違う振る舞いと共感と自己犠牲を公的にも私的にも要請され(ていると思い込み)、やはりずっと疲れていた。そうして記憶がいつもくすんでいるというか、よく覚えられなくなった。今振り返ると軽く解離していたような気がする。不惑を越えてようやく、人間には断る権利と表現する権利、共感「しない」権利、自分のしたいことを行為する権利があると腑に落ちた。そうすると、今まではなにやってたんだろうという気持ちとともに、今までとらわれていた数々の苦痛が急に現実感がなく、それらは本当にあったのだろうかという風に感じたりもする。ひとの記憶のリアリティは本来はそんなものなのだろう。現在の感情に多分に修飾されていて、その強さによってリアリティを感じたり感じなかったりする。
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ロックで読み解く貧困 (2) 子どもの貧困- Suzanne Vega “Luka”

前回は経済的貧困だったけれども、今回は子どもの貧困について書く。支援の貧困と言いかえてもいいかもしれない。

1987年の、スザンヌ・ヴェガの「ルカ」。初めて聴いたときは少し衝撃を受けた。この曲は結構ヒットしたけれども、いわゆる児童虐待がテーマで、当時話題を呼んだ。

僕の名前はルカ
2階に住んでる
あなたの上の階です
前に会ったことあるよ

もし…夜中に何か、ケンカみたいな、もめごとみたいな音が聞こえても
「何があったの?」と聞かないでくださいね
「どうしたの?」と聞かないで
どうか、聞かないで
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ロックで読み解く貧困 (1) – Tracy Chapman “Fast Car”

先日、トレイシー・チャップマンの「ファースト・カー」がラジオから流れてきた。
この曲でうたわれるテーマは、絵に描いたような貧困だ。この曲は若い女性のストーリーである。彼女の交際相手は、スピードの出る車を買った。父はアルコール依存で、飲んだくれてばかりで働かない。母は別の人生を求めてそんな夫と娘を棄てた。彼女は学校を辞めてコンビニで働き、父の世話をしている。彼女はこの町を出さえすれば、新しい人生が開けるのではないかと思い、彼のクルマで町を出ようとを提案する。

彼女は新しい人生への一縷の望みを賭けて、彼にこう迫る。
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