ロックで読み解く貧困 (4) 労働の貧困 -XTC “Making Plans for Nigel”

ロックで読み解く貧困シリーズ、最終回です。実はこの最終回が書きたくて始めたのだった。最終回は、労働にまつわる貧困です。そして大好きなXTCの曲です。

細々と、一番長く続けている仕事がある。飽きっぽく腰の据わらない自分が、10年ほど続けている。とある自治体の知的障害者作業所の精神科相談である。
この仕事は、ほんとに若くて未熟なときに始めた。利用者の人たちは、そもそも口数が少ない人が多い上、多くない語彙の中からわずか数語に、言葉にならない思いを乗せてコミュニケーションをする。初めて会う人には緊張して、ますます言葉が減る。なので、どういう言葉を使うかとか、何をどういう風に尋ねるか、とか試行錯誤の上、内面よりも生活のことに絞ったほうが話しやすいという知見を得た。気分はどうかよりも、ご飯を何時に食べたかのほうが答えやすいし、生活と行動を丹念に聞き取ればそこに何らかの思いや意図が見えてくる。

作業所の仕事は単調である。一番多いのはバリ取りという、プラスチックの部品の角を取る作業である。一番単純なので、不器用な人や障害の重めの人はほぼこれに従事する。1時間もやったら手が痛くなる。計算してみると作業所全体で月に数十万個の部品ができあがる。
あとは雑誌の付録などの袋詰め、これは少しバリ取りよりは少し器用に行う必要がある。また、劇場のこんがらかったガイド用イヤホンをきれいに結び直すという作業もある。手先の器用な”熟練工”が従事するのは、選挙用のポスターに認可のシールを貼る仕事である。これは位置が細かく指定されているので、曲がらずに貼れる人でないとやれないが、特に自閉症スペクトラムの人の中には上手な人がいて、私なんかよりも余程速く正確にこなしていく。
施設内での作業の他にも、公園清掃がある。これは自治体から委託されている。公園清掃の日は、散歩も兼ねて利用者の人たちが連れ立っていく。夏の暑い日はなかなかしんどいものがある。
単調な毎日の中でも、日々色々なことが起こる。ストレスを抱える利用者もおり、トラブルも多々起きる。ことが起きたときにアセスメントと対処を考えるのが私の仕事である。トラブルは成長の種であり、知的障害がある人たちはゆっくりゆっくり成長している。

さて、これらの作業はどれくらいのお金になるのか?作業所の月の売り上げは、だいたいトータルで40万円台である。売り上げの割合が一番大きい作業は何だろうか?答えは公園清掃で、20万円弱を占める。自治体から委託されているからだ。次は、施設内の飲料自販機の売り上げで、これが数万円ある。これは正規の事業と言うより、家族の方々の希望もあり売り上げにカウントされている。月に数十万個が生産されるバリ取りはいくらになるかというと、わずか8000円から10000円台である。そして利用者の工賃は、週5日9時から15時までの作業で、月に数千円から1万円程度である。

さて、ロックである。私がこよなく愛するXTCである。今は某大手ウェブメディアの編集長を務める高校の先輩が貸してくれたアルバムはThe Big ExpressとSkylarkingで、初めて聴いたとき、非常に衝撃を受けた。そこから私の人生はだいぶ変わり、少しだけ豊かになったと思う。以後私の夏は毎年Skylarkingの最初の曲、Summer’s Cauldronの虫の音とともに始まり、終わる。

アルバム”Drums and Wires”の中の”Making plans for Nigel”という曲がある。高校の時から大好きな曲だ。

XTC “Making Plans for Nigel”

We’re only making plans for Nigel.
We only want what’s best for him.
And if young Nigel says he’s happy, he must be happy, he must be happy, he must be happy in his work.

僕らはナイジェルのためのプランを立てているだけなんだ
彼にとってベストな選択を望んでいるだけなんだ
ナイジェルにはこういう援助が必要なんだよ

そして若いナイジェルが「幸せだ」と言うなら
彼は幸せに違いないんだ
幸せに違いない
仕事に満足しているんだよ

僕らはナイジェルのためにこのプランを立てているんだ
彼の未来はブリティッシュ・スティールの中にある
ナイジェルの良き未来のすべてがここにつまってる

そして若いナイジェルが「うれしい」と言うなら
彼は幸せに違いないんだ
幸せに違いない
仕事に満足しているんだ

ナイジェルはあまり話さない
でも話すのは好きだし
話しかけられるのも好きなんだ
ナイジェルは仕事に満足しているんだよ

(歌詞翻訳は筆者による)
*****

British Steelは英国の製鉄会社である。日本で言ったら、トヨタのような大手製造業なのだろうか? 初めて聴いたとき、若いナイジェルという男の子に、彼の希望などは無視して堅い労働を勝手に押しつけている両親、のようなイメージを想像した。

しかし作業所に来て、そこでの労働を見るうちに、この曲を思い出した。そうか、これは「福祉」のイメージであり、労働をめぐる貧困の歌なのだなあとしみじみ思った。私の勝手な投影ではあるのだけれど。
もちろん私が言っているのは作業所で働く職員の意識や姿勢のことではない。職員さんたちはそれこそ遅れがちな作業をフォローし、利用者さんたちについて親身に考え支援をし、保護者に報告をし、尽きないタスクを日々こなしている。その姿には本当に頭が下がる。そうではなく、社会が「障害者が働くこと」について持っているイメージの貧困である。
もちろんここを卒業し清掃などの仕事に就職する利用者もいる。そしてこういう軽作業がほんとうに合っている人、というのもいると思う。

しかし売り上げの内訳や工賃を見れば、これらが「作られた」仕事であり、本当に社会に貢献できる力をこの人たちの中に見つけようとしていないことが、わかるのではないかと思う。
正直、こういう内職はとても単調で退屈である。知的障害があっても、多くの人はある時期にとても伸びる。それは20歳から30歳の間であることが経験的には多くて、この段階で伸びていく力が使えず、自分のやっていることに意味が見出せずに退屈してしまうと、あとあと行動障害として出てくることがある。伸びしろがある人ほどそうで、それは何となく口惜しい感じがする。別に全員が社会的な生産に従事する必要はないけれども、自分がした労働が社会的に役に立っていることがわかることは、人を元気づける。それは障害があろうとなかろうと、同じである。

「ナイジェルにとってこれが最良のプランなんだ。彼はここにいればとってもハッピーなんだよ」
障害者施策というのはいつも言い訳のように作られていて、そのような自己満足に陥っているように思う。

クロネコヤマトの創業者、小倉昌男氏は障害者の労働状況を改善すべく、自社でも障害者雇用に力を入れたし、スワンベーカリーなどのちゃんとマーケットに乗る職場も作った。私が診てた人も雇われた。
福祉を変える経営~障害者の月給1万円からの脱出
チョークや画材の製造をしている日本理化学工業では従業員の7割が知的障害者で、材料の計量を秤から色分けした容器に変えたり作業工程を工夫することで、障害者に限らず全体の作業効率が上がった。それは障害の有無でできることを分けるのではなく、人間に共通する認知のほうに目を向けたからだ。こういうことは、医療よりも福祉よりも、ちゃんと経営しないといけない企業のほうが余程合理的で上手だ。
それなりに色々雇用や労働の現場にかかわったけれども、意味のある労働、その人の意志が望んでする労働は、病気すら良くする。その過程を目の前で見てきた。病気は基本的に、望んだことに使えていない力が反転したものだと思う。

障害者、と何度も書いているとだんだん暗澹とした気持ちになってくる。もちろんできないことはできる人の手助けが必要だけれど、それは人間であれば誰でもそうだ。私自身は、「障害者福祉のため」に働くつもりは、あんまりない。ハンディキャップに見えるものを新しい目で見てみると、新しい価値が現れる。新しい価値は、自由な、むしろ遊びに近い試行の中から生まれてくるものだと思う。肩肘張らない、軽くて機能する、そしてかかわる人を幸せにする、そういう新しい価値を生まれさせる産婆のようなものでいたい。地上的にがんばらないといけないときはがんばらないといけないけれど。

私の中の、そして世界のナイジェルが心から笑う日のために。

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ロックで読み解く貧困 (4) 労働の貧困 -XTC “Making Plans for Nigel”」への1件のフィードバック

  1. ノエルかえる

    こんにちわ、
    XTC ファンです。
    この歌、「がんばれナイジェル」、
    両親が息子、ナイジェル君の就職を心配している、と言う歌です。
    少し説明すると、ナイジェルと言う名前、イギリスでもそう多いものではありません。
    でも、1963年生まれの男の子に、突然、増えたのです。その子が、イギリスの中等教育を終えて、
    就職する頃が、この歌が発表された1979年なのです。 
    ちょうど、不況で、就職難の時代でした。
    それから、a British steel 、不定冠詞 a なので、某ブリティッシュ・スティール社か、
    ブリティッシュ・スティールの子会社と言う意味になると思います。 

    では、

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