ヤドリギ製剤の話

緩和ケアの先生と偶然お話する機会を得た。

違う分野で働いている方から、新しい視点のお話を聴けることはいつもうれしい。今回も予想以上に深い話合いができたのだけれど、その中で「緩和ケア病棟では、ここに来なければ受けられない、という治療はむしろしないようにしている」ということをおっしゃっていたのが印象的だった。

緩和ケアに来ればこういう特別なケアもしくは治療が受けられる、というのはそぐわない気がする、ということだった。特に、物質的治療は金銭的価値と結びつきやすいので、余分なお金を払えばこの治療が受けられますよ、というのはどうかと思う、とのことだった。とても納得のいく姿勢だと思った。

という話を聞きながら、ヨーロッパでは治療と緩和ケアの両方において、がんに対して選択肢になるひとつの薬剤があって、話題に出してみた。ヤドリギ(Misteltoe)である。

ヤドリギ製剤は、ヨーロッパではがん治療におけるわりとメジャーな補完代替療法(Complementary-Alternative Medicine ; CAM)である。イスカドール(Iscador, Weleda)とアブノーバ(Abnoba, WALA)の2剤で、標準的には皮下注射で使用する。ヨーロッパでは患者さんの自己注射が認められているので、週3回程度皮下注射する。

単独で使うというより、抗がん剤や化学療法とともに平行して使用される。ヤドリギ製剤を使うと、体温の上昇、免疫力の向上、全身状態やうつなどの精神症状の改善などに加えて、これらの治療の副作用も緩和する作用があるらしい。以前にポーランドのドクターに聞いたところ、痛みの緩和作用もあるので、自分の患者さんは消炎鎮痛薬(NSAIDS)だけで、モルヒネを使うところまであまりいかない、とのことだった。

ちなみにドイツでは保険適応になっている。臨床研究を行って、治療効果と、対費用効果が把握されている。ヤドリギ製剤のコストは高くない。ヤドリギの栽培は簡単だし、精製して製剤化する行程も簡素だから、新薬開発のコスト(たとえばこんな問題もある。ちょうど今日放送)と比べると比較にならないくらい低い。

なぜがんにヤドリギなのか?実は、この製剤が生まれた背景は、ちょっと不思議だったりする。

ヤドリギは寄生植物である。自力では土に生えることができず、他の木(松や白樺、りんごなど)の枝に芽吹いて、およそ木らしくないマリモのような丸い形をつくる。その構造は単純で、2枚の楕円形の葉が双葉のように対に連なっている。そして匂いも鮮やかな色もない、芽のような緑の地味な花をつける。

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ある意味、花も葉もあまりそれらしくなく、未分化なままのかたちをしている。また、他の木から栄養を横取りして、塊をつくっていく。この様子ががんに似ている、というところから、この薬が「思いつかれた」。ただヤドリギはがんと違って宿主を枯らすことはなく、共存する。

白樺に寄生したヤドリギの写真を撮った。2年前の5月の長野。なんだか転移巣とかに見えなくない。

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ヤドリギ製剤の立ち位置を考えると、それもまたヤドリギ的である気がする。基本的には単独では使われることはなく、主役になるわけではない。現代医学の治療を、補助するものとして使われる。メジャーな治療と対立するのではなく、”寄生”して自分の立ち位置を活かす。

補完代替療法(CAM)は、私は補完療法(Complementary Medicine)と呼ぶほうが立ち位置として的確ではないかと思う。代替療法(Alternative Medicine)という呼び名はもともと「代わりとなる」選択肢、という意味であったと思うが、最近は「現代医学にとって替わる」ものと誤解されることがある。私自身もCAM的手段を使うことがあるが、病気の治療において、現代医学の治療なしにCAMだけにしたほうがよい、という場合はあまりないな、というのが正直な実感。何しろ、医学はどんどん進歩している。自分が卒業した12年前と比べても、格段に薬も手法もよくなっている。不足しているとすれば、治すことばかりに目が行き、ケアを支える手段が少ないことか。これは保険の配分も含めて。

しかしよく考えてみると、CAM、という名前は言外に「保険適用外」という意味を含むので、ヤドリギ製剤のように一応データがあり保険が適用されていると、他の現代医学の治療の選択肢とあまり違わなく見えてもくる。

もし広告のように、「ヤドリギ製剤でがんは治る」と言ったらそれは全く間違いである。しかし「抗がん剤でがんは治る」と言っても、それも間違いである。どちらも選択肢の一つであり、どちらも限界があるからこそ、併用して、互いの欠点を補い、長所を引き出す、という相互作用が行われたらいいように思う。人間関係みたいに。

補足1:

お会いしたDr. Takuya先生がブログにご感想を書いてくださいました。

ヤドリギの話し

http://drpolan.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-939e.html

補足2:臨床研究のデータです。

★ がんへのヤドリギ製剤の効果のCochrane Review

http://onlinelibrary.wiley.com/o/cochrane/clsysrev/articles/CD003297/frame.html

有用性が出ているが、追試がもっと必要であるという結論。

★ ヤドリギ製剤(イスカドール)の臨床研究論文集

http://www.iscador.com/clinical-studies/index.aspx

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