木をギターに生まれ変わらせる方法

前回の書評からのつながりで。

「最高齢プロフェッショナルの教え」に出てきたヤイリギター。個人的にはこの矢入一男さんの話がこの本の中で一番面白かった。木材の乾燥に数年、1本のギターを作るのに半年から1年をかけるという。非効率だからこそ、最高の音で鳴る楽器ができる、と矢入さん。

以下、面白いと思った矢入語録。本からの引用。

「木は、同じ名前、同じ厚み、同じ寸法でも人間と一緒で性質がばらばらです。こういうものに接するにはコンピュータでは無理。人間が持っている”勘ピュータ”だけが頼りです。」

「人の役になんて、立たんでもいいやん。それよりも、人に絶対迷惑をかけんこと、面白いことをするほうが先です。そんな簡単に、人の役になんか立てるもんか。」

「なぜこの仕事をやめられないかって、チャレンジすることが楽しいからです。」

「苦労なんて、私の人生にはないんだよ。さっきから言っているように、好きでやってきたことなんで。」

ヤイリギターでは、組み立て完成後に3ヶ月間、品質管理室で24時間音楽を聴かせるという。この行程を行うと、鳴る音がよくなるとのこと。矢入さんはこの時間を「天使が宿る時間」と呼んでいる。いかにも職人気質といった矢入さんから、「天使」というファンタスティックな言葉が出てくるのは何だか微笑ましい。でも実際にギターを作り続けている職人から見たら、「天使が宿る時間」としか表現できないような、質の上がる不思議なプロセスなのだろうと思う。

これを精神論とかまじないの類と考える人もいると思うけれど、それだけでなく、合理的な行程でもあるのではないかと私は思う。ギターになる前の樹木は音楽なんて「聴いた」ことのない、森のただの「木」だったわけで、それが「ギター」になるためには何らかの変化をとげる必要がある。

私は詳しくないけれども、オーディオもエイジングということをしたりする。新しいオーディオ機器を使うときに、音楽を鳴らし続けて、機械を慣らし運転のように音に「なじませる」と、良い音で鳴るようになるという。(賛否両論あるようではあるが。kyupin先生のblogにも記事がありました。守備範囲広い・・・)

音は波動なので、形をつくる力がある。ドラムの上に粉状のものをおいて、叩くと万華鏡のように波の模様ができる。できたばかりのギターに音を聴かせ続ければ、木の中の微細な分子構造が、音になじんだ構造に変わってくることもありうるのではないかと思った。

ここから脱線して、さらに想像を拡げてみる。人間も、ある意味、日々音により「エイジング」されているのかもしれない。

人間にとって一番大事な音は、人の話す言葉だろうと思う。さまざまな人の声の周波数や、単語のもつ音、感情の抑揚、文の長さやリズムなどを、私たちは日々聴いている。

美しい言葉と優しい抑揚で話す人に囲まれているのと、とげのある言葉、乱暴な感情のトーンがあふれた環境にいるのでは、その人の内面だけでなく身体も変わってくる可能性があるかもしれない、などと思った。

自分の発する言葉が日々誰かに影響を与えているとするなら、なるべくきれいな言葉を簡潔に話したい。繰り返し音楽を聴かせ続けた木がギターに生まれ変わるように、ずっとその努力をしていれば、何かが変わってくるのかもしれない。

音楽は心の余裕や欲求がないと聴けないと思っていたけれども、ヤイリギターの話を読んでから、良質だと思う音楽をいつもかけるようにした。自分の耳と身体がエイジングされていくといいなと、願ったりしている。

最高齢プロフェッショナルの教え

最高齢プロフェッショナルの教え

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